INTERVIEW
2026.06.18
【前橋】清水大輔さん(群馬SAKETSUGU 代表)
清水 大輔さん
群馬SAKETSUGU 代表
群馬の酒を、群馬の誇りにー 地酒と人をつなぐ八年間の歩み
今回クローズアップするのは、群馬県前橋市で生まれ育ち、県庁職員を退職した後、地元の日本酒(地酒)を軸にした事業「群馬SAKTSUGU」を立ち上げた清水大輔(しみず・だいすけ)さん。
県庁職員として15年間、産業政策や震災対応、障害福祉、企業支援など幅広い行政の現場を歩んできた。その中で出会ったのが、群馬の造り酒屋の人たちだった。
「学生時代の日本酒のイメージは、強い悪魔の酒でした。でも、県庁で出会った地酒は全く別物で、美味しいのはもちろん、人の想いが詰まったものだったんです」
清水さんは笑いながらそう語る。そこから始まった群馬の地酒との深い関わりは、清水さんの人生に大きな影響を与えることになった。
県庁で出会った「造る人の生き様」が、地酒への情熱を生んだ
工業振興課(当時)で地域の伝統産業を担当したとき、清水さんは多くの酒蔵を訪れた。家族だけで日本酒を造る蔵、代々続く家業に一度背を向けながらも戻ってきた蔵元、海外に挑戦する若い後継者。
「日本酒そのものより、作っている人たちに惹かれたんです。同世代の蔵元さんたちが、群馬で必死に挑戦している姿が本当に魅力的で。」
最終消費財である日本酒は人の顔が見える産業だった。また、昔は隣同士の酒蔵はライバルだったかもしれないが、日本酒の市場が縮小している中、酒蔵同士が切磋琢磨し助け合いながら、日本酒の魅力を届けるために奮闘している。
コンビニの棚で、大手メーカーの日本酒と、親子3人で造る地酒が並んで勝負している——そんな酒蔵に携わる人の生き様に胸を打たれたという。
「自分が関わることで売上が少しでものびるなら嬉しい。 そんな気持ちで、担当外になっても補助金申請を手伝ったり、県庁につないだりしていました。」
やがて、群馬の地酒をもっと広めたいという思いが膨らみ、県庁を退職。2019年、群馬SAKETSUGUを立ち上げた。

群馬SAKETSUGUの挑戦——地酒を日常のコンテンツにするために
群馬SAKTSTUGUが目指しているのは、単なる酒の販売ではなく、群馬の地酒を通して、人と人がつながり、楽しい時間が生まれること。 そのために、清水さんは情報発信とイベント企画を軸に活動してきた。
● コロナ禍での挑戦
ITが得意ではなかったが、勉強をしながら蔵元とYouTubeライブを実施。オンライン飲み比べセットを企画し、群馬イノベーションアワードではファイナルまで進出。そのプランが県の予算化につながり、実際の事業として実現した。
● 群馬の地元コンテンツとのコラボ
- ザスパクサツ群馬との動画企画
- FM群馬パーソナリティのラベル酒
- イタリアン・中華・温泉とのコラボイベント
- 学会の懇親会での地酒提供
「群馬の地酒だけだとコアな人しか手に取らない。だから、他の群馬の魅力と掛け合わせて裾野を広げるんです」
地酒を“日常の中にあるコンテンツ”にするための挑戦は、今も続いている。

期待したスピードでは進まない現実
一方で、清水さんは正直に語る。
「事業は立ち上げられたけれど、まだ従業員を雇えていない。 当初描いていたほどの爆発的な影響力はまだ持てていないんです」
群馬の地酒の情報を集約するウェブサイトを作り、 「ここに来れば群馬の地酒のすべてが分かる」という世界を目指した。しかし、情報発信だけで市場を大きく動かすのは簡単ではない。
それでも、少しずつ変化は起きている。
- コアなファンが増え、イベントを手伝ってくれる人が増えた
- 学会での地酒提供の依頼が来るようになった
- 酒造組合から単発事業の運営を任されるようになった
「牛歩かもしれないけれど、実績が評価されて声がかかったり、関係者が少しずつ増えて行ったりなど、確実に前には進んでいると思っています」
蔵元同士の関係を“つなぐ役割”としての存在
酒造組合は歴史ある組織だが、事務局は少人数で、意思決定には時間がかかる。また、蔵元同士が必ずしも簡単にタッグを組めるわけではない。
そんな中で、清水さんは、潤滑油のような役割を果たしている。
「誰かが取り残されないように、というのは意識しています。一匹狼の蔵も、ちゃんと輪の中に入れる。それができるのは、県庁で培った公平性と、個人として一人ひとりと信頼関係を築くようにしているからだと思います。」
その姿勢が、蔵元の皆さんの心を結集させ、地域を動かしているのだろう。
清水さんの話を聞いていると、群馬の地酒は単なる酒ではなく、地域の文化、造り手の歴史、家族の営みが重なってできた地域の物語だと感じる。
そしてその物語を、群馬SAKETSUGUは丁寧にすくい上げ、広げ、つないでいる。爆発的なイノベーションではなく、コツコツと、誠実に。その積み重ねで、群馬の地酒と出会う人たちが少しずつ確実に増えている。

編集後記
取材を通して印象的だったのは、清水さんの酒蔵の方への敬意だった。地酒を広めたいというより、造り手の努力を正しく届けたいという思いが軸にある。その姿勢が、群馬SAKETSUGUの活動に一貫した方向性を与えているように感じた。
清水さんの周りの「おすすめ」
インタビューの最後に、清水さんに最近のホットなものを聞いてみた。
「ザスパクサツ群馬ですね。自分は今、細貝萌選手のマネージャーも仕事としてやっているんです。群馬の中では一番結果を出した代表レジェンドだと思います。群馬が生んだチームとして応援してほしいです!」
ザスパクサツ群馬は、群馬が誇るJリーグチームだ。日本酒を片手に、地元のチームを応援する——そんな週末を考えるだけでわくわくする。まだ触れたことのない人こそ、この機会にぜひスタジアムへ。