INTERVIEW
2026.08.06
【高崎】深見 航平さん(農家)
深見 航平
高崎市
「旬」を届ける、逆張りの農業
群馬県高崎市。イオンモール高崎からほど近い畑で、日々、土と向き合う人がいる。
渋川市出身の深見航平(ふかみ・こうへい)さんだ。就農から間もなく14年。生産に加え、企業向けのランチ「サラダボウル」や、Jリーグ・ザスパ群馬との農業体験企画にも取り組んでいる。あえて第一次産業を選んだ理由、地元・群馬に戻った理由、そしてこれから見据えていることについて話を聞いた。
あえての第一次産業 ―― 「逆張り」から始まった就農
深見さんの原点は、大学時代の海外ボランティア経験にある。中国でハンセン病回復者の支援を行うサークル活動に参加する中で、誰かの会社に勤めるのではなく、自分でチームをつくり事業を起こしたいという思いが芽生えた。
ちょうどスマートフォンが登場し、IT業界が盛り上がりを見せていた時代。深見さんが選んだのは、その真逆の道だった。
「なんかまあ、逆張りみたいな感じで。IT系じゃなくて、第一次産業の方が面白くなるんじゃないかなって」
秀でた才能があったわけではない、と深見さんは振り返る。
「基本的に何もないので、僕、才能とかセンスが。だから、立ち位置というか、いる場所で差別化を図ってたのかなあと思いますね」
祖父母が農業を営んでいたこと、友人の実家が農家だったこと、そして自身も学生時代に飲食店でアルバイトをしていたこと。いくつもの縁が重なり、2012年、深見さんは農業の現場へと飛び込んだ。

千葉から群馬へ ―― 地元に戻った理由
千葉県での就農を経て、大学の同級生と千葉県館山市・南房総で5年ほど農業を営んだ深見さん。2020年、生まれ育った群馬への帰還を決める。
「そもそも、東京出たいなみたいな感じで、地元に全然帰ってくるつもりはなかった」
そう語る深見さんが群馬を選んだ理由は、気候への土地勘だった。
「気候の変動だったりとかも、全然わかんないんで。どれぐらい寒くてどれぐらい暑くて、台風もこんな感じで来るなっていうのが、なんとなく読めない部分もあった。だったら地元の方がいいかなっていう」
加えて、地元に戻ってきていた友人たちのネットワークも後押しになったという。
「農業って、その土地でやってる理由の説明が必要になってくるんですよね。地元なら、それが自分の中でもしっくりくる」
サラダボウルに込めた「旬」への思い
生産だけでは広がりが生まれにくい。そう感じた深見さんが動き出したのが、加工と飲食の分野だ。企業のランチ向けにつくる「サラダボウル」には、季節ごとの野菜が詰め込まれている。
「サラダボウルじゃなきゃいけないってこともないんですけど、一番わかりやすいかなっていうところで。届けたいのは、旬なんです」
スーパーには一年を通して同じ野菜が並び、季節感が失われつつある。
「季節感ってないんですけど、それを我々が伝えていかなきゃいけないのかなとは思ってます。季節を感じるっていうのが、生活を豊かにするなあと」
畑の前を通り過ぎる人の多くは、今そこに何が植わっているのか気づかない。それでも深見さんは、サラダという形を通じて、季節の移ろいを日常に届けようとしている。

ザスパ群馬と描く、農業を介した交流
深見さんが力を入れるもう一つの取り組みが、Jリーグ・ザスパ群馬との共同企画「ザスパファーム」だ。選手、サポーター、地域住民、フロントスタッフが、一枚の畑の上で顔を合わせる。
「農業を通じて交流できるような企画になってるかな、という感じです」
始まったばかりの取り組みは、少しずつ輪郭を帯びてきているという。
「ぼちぼち、定例化してきてるのかなあっていうところは。まだまだ始まったばかりなので」
目指すのは「食のブランド」
深見さんが今見据えているのは、農業発のブランドづくりだ。
「農業発のブランドを一個作りたくて。ハイブランドを作りたいっていうことじゃなくて、食っていう分野で言ったら、これがあるよね、みたいなブランドです」
サラダボウルという飲食事業も、その構想へ続く道の途中にある一つの取り組みに過ぎないという。
「深見という個が頑張ったとしても、伝わる範囲がすごい狭いなあっていうのはあるので。旬とか季節をしっかり届けられるような、見せ方・伝え方をした形にしていきたい」
まだ方向性は固まりきっていない。だからこそ、地域の人たちとの対話を大切にしたいと深見さんは語る。
「こんな感じの、どう?って聞いた時に反応をもらえたり、それ違うんじゃないの、その感じでいいんじゃない、って教えてもらうだけでもありがたいです」
深見さんの挑戦は、農業にとどまらず、サラダボウルをはじめとした、地域の暮らしに季節を取り戻す試みへと広がりつつある。まだ輪郭の定まらない「ブランド」という構想は、これから地域の人々との対話を重ねながら、少しずつ形になっていくのだろう。

編集後記
今回の取材で衝撃的だったのが、「逆張りで農業をやろうと思った」という発想だった。
「農家」という言葉でイメージするのは語弊を恐れずいうと、「お年寄りがやっている」というものがどうしても先行してしまう。
現在、農業に従事している人の平均年齢は67.7歳。30代以下は全体の5%に過ぎないという調査も出ている。
「農業は手段」。そう話す深見さんの取組は農業に対する見方を変えるのかもしれない。
サラダボウルの事業など、野菜を作ることにとどまらない発想で、消費者の生活を豊かにしていきたいというビジョンは多くの人の共感を得るに違いない。
引き続き、これからの深見さんの挑戦を楽しみにしたい。